国学者の「天皇地球総帝説」
19世紀、国学者たちは、日本の天皇が世界の皇帝になるという妄想を発展させた。これを「天皇地球総帝説」という。
この「総帝説」の中では天皇が世界の支配者であると同時に日本人に他の全ての民族がひれ伏すことになっていた。やがてこれが、太平洋戦争期の「天孫民族」という妄想に至る。
(<近代デジタル・ライブラリー>http:/kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1048646)
明治政府を造ったのは、国学者吉田松陰の弟子たちであり、松陰は韓国を征服し支配することを弟子たちに教えた。弟子の中でもっとも忠実な征韓論者は木戸孝允である。彼らはやはり征韓論の信奉者であった佐田 白茅や森山茂を釜山に派遣した。使者からしてコレでは最初から領土的野心が見え見えである。佐田 や森山はしばしば悶着を起こした。
佐田 や森山の征韓論を受け、1870年 外務省が太政官あてに『対朝鮮政策3か条』を提出した。
第ニ策「天皇の使いとして木戸孝允を派遣し、王政復古政策の国書受理拒否を責め、通商条約締結をもちかけ、これを朝鮮側が拒否するなら武力発動に及ぶ
第三策「朝鮮懐撫のため、宗主国である清国と「比肩同等」の条約終結を先行させ、ついに朝鮮を「一等を下し候礼典」で扱い、「遠く和して近く攻る」の方策
であるという。こうしていずれは征服するという前提の国交がなされたのである。
やがて台湾や朝鮮、樺太を得た大日本帝国の欲望はさらに燃え上がり、アジア各国に侵略する時代がきた。かつて佐藤信渕が述べたように、まず中国からだ。長州閥の因子を受け取った陸軍が満州事変を謀略し、やがて中国全土を蹂躙する。そして太平洋戦争。あらゆるアジアの国々にその魔手を伸ばした。
敗戦後、天皇がその人間宣言の中で、「日本国民が他の民族よりも優秀だから、世界を支配する運命だというのは嘘だ。」(日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命 ヲ有ストノ架空ナル観念」)と宣べているのはこうした過程があったからだ。
日本の右派が思い描く「征韓論」
右派雑誌で妄想的な歴史論を書いている岡田秀弘は、「こうした李朝のかたくなな態度が征韓論につながった」と時系列を変えて書いている。吉田松陰の弟子たちに韓国をはじめとする諸国の征服を命じたのは、明治維新の前の話であり、佐田 白茅が建白書を書いたのは明治初年であり、「朝鮮は応神天皇以来、(朝貢の)義務の存する国柄であるから、維新の勢力に乗じ、速やかに手を入れるがよろしい」と書いている。
そして秦郁彦が『陰謀史観』に書いたところによると、征韓論は明治維新の登場人物の多くが信奉する思想だったようだ。
岡田の記述は時系列を変える事で、被害と加害の関係を変えようというケチな試みであろう。
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