2022年1月24日月曜日

『「慰安婦」はみな合意契約をしていた』(有馬哲夫)を読んでみる

 有馬哲夫氏の『「慰安婦」はみな合意契約をしていた』も読んでみた。いや、読んだのはもう4,5か月も前の話だが、面倒くさくて読後感想を書く気になれなかったのだ。忙しかったし・・ね。ともあれ、ちょっと時間ができたし、面倒でも奮起してこれからちょくちょく書いて行きたいと思う。



最初読んだ時に感じたのは、”随分、雑な史料の使い方をするのだな”・・・だった。彼が擁護しているラムザイヤー氏とよく似ている。あるいは秦郁彦氏だろうか?
右派論壇では、秦郁彦氏の『慰安婦と戦場の性』は、一種の金字塔らしいが、かなり大量にデマやデタラメが混入する著作である。史料の扱いも極めて雑である。この本の中で有馬氏も引用しているので、秦氏の緒論についてはそのうちにちゃんと批判しておこうと思う。

それにしても、有馬氏は自称「公文書学者」である。「公文書学」などという分野は初耳だし、多分有馬氏以外には「公文書学者」を名乗る人はいないのだろうが、公文書もちゃんと読めなかったのだろうか?

例えば、すぐに気づくのは、p203から「軍慰安所従業婦等募集に関する件」についてである。
有馬氏はこう書いている。
第1章でも触れた「軍慰安所従業婦等募集に関する件」が好例だが、吉見はこれを日本軍の関与を示したものだとした。しかし、この通達は各地の警察に悪徳周旋業者を厳しく取り締まるように命じたものだった。

まるでデタラメ。

一体、何をどう解釈をするとこうなるのだろう?
この公文書は【各地の警察に悪徳周旋業者を厳しく取り締まるように命じたもの】などではない。そもそも陸軍の副官から、北支方面軍と中支駐屯派遣軍の参謀長に宛てた通牒であり、警察(内務省)に向けた文書ではないのだから、「警察に命じた」りしているわけがない。指揮命令系統も違うしね。

「各地の警察に悪徳周旋業者を厳しく取り締まるように命じたもの」ではなく、現地軍に周旋業者の選定」とその選定にあたって「憲兵や警察と連絡を密」にし「社会問題にならないように」命じた文書である。

下記の文章のどこにも警察に厳しく取り締まるように言っていない事は読めばわかる話だ。



支那事変地ニ於ケル慰安所設置ノ為内地ニ於テ之カ従業婦等ヲ募集スルニ当リ故ラニ軍部諒解等ノ名儀ヲ利用シ為ニ軍ノ威信ヲ傷ツケ且ツ一般民ノ誤解ヲ招ク虞アルモノ或イハ従軍記者慰問者等ヲ介シテ不統制ニ募集シ社会問題ヲ惹起スル虞アルモノ或イハ募集ニ任スル者ノ人選適切ヲ欠キ為ニ募集ノ方法誘拐ニ類シ警察当局ニ検挙取調ヲ受クルモノアル等注意ヲ要スルモノ少カラサルニ就テハ将来是等ノ募集等ニ当リテハ派遣軍ニ於テ統制シ之ニ任スル人物ノ選定ヲ周到適切ニシ其実施ニ当リテハ関係地方ノ憲兵及警察当局トノ連繋ヲ密ニシ以テ軍ノ威信保持上並ニ社会問題上遺漏ナキ様配慮相成度依命通牒ス

陸支密七四五号  昭和十三年三月四日

「軍慰安所従業婦等募集に関する件」(以後「副官通牒」と呼ぶ)に関して、昔似たようなデタラメな解釈を読んだ事がある。2007年、第一次安倍政権当時、「歴史事実委員会」という右派グループが「ワシントンポスト」に意見広告を出した。その広告では、「副官通牒」を「陸軍の名義を不正に用いたり、誘拐に類するとされたりする募集方法について厳罰に処されると警告して、明確に禁止している」としていた。

(歴史事実委員会の意見広告の内容は、2012年のものだが、このサイトに画像が掲載されている

文章の中にそんな警告は見当たらないが、そういう事にしたいわけだ。

日本軍はちゃんと禁止してたんだよ。
取り締まってたんだよ。
だから・・責任は無いんだ、と言いたいのである。

こうしたムリ目な解釈をほどこす国粋主義の責任逃れの言い分が、どれほど日本に害を及ぼしてきたか、分からないほどだ。有馬氏もそこに参加したいらしい。