2020年3月19日木曜日

我が国における征韓と世界侵略妄想の世界


            国学者の「天皇地球総帝説」

19世紀、国学者たちは、日本の天皇が世界の皇帝になるという妄想を発展させた。これを「天皇地球総帝説」という。
この「総帝説」の中では天皇が世界の支配者であると同時に日本人に他の全ての民族がひれ伏すことになっていた。やがてこれが、太平洋戦争期の「天孫民族」という妄想に至る。

『吉田松陰全集』第一巻 p350-p351「幽囚録」「朝鮮を責めて、質を納れ、貢を奉ずること古の盛時のごとくならしめ、北は満州の地を割き、南は台湾、呂宋(フィリピン)諸島を収め、進取の勢を示すべき」「国力を養ひて取り易き朝鮮、支那、満州を斬り従えん」
(<近代デジタル・ライブラリー>http:/kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1048646

明治政府を造ったのは、国学者吉田松陰の弟子たちであり、松陰は韓国を征服し支配することを弟子たちに教えた。弟子の中でもっとも忠実な征韓論者は木戸孝允である。彼らはやはり征韓論の信奉者であった佐田 白茅や森山茂を釜山に派遣した。使者からしてコレでは最初から領土的野心が見え見えである。佐田 や森山はしばしば悶着を起こした。
佐田 や森山の征韓論を受け、1870年 外務省が太政官あてに『対朝鮮政策3か条』を提出した。
第ニ策「天皇の使いとして木戸孝允を派遣し、王政復古政策の国書受理拒否を責め、通商条約締結をもちかけ、これを朝鮮側が拒否するなら武力発動に及ぶ
第三策「朝鮮懐撫のため、宗主国である清国と「比肩同等」の条約終結を先行させ、ついに朝鮮を「一等を下し候礼典」で扱い、「遠く和して近く攻る」の方策
であるという。こうしていずれは征服するという前提の国交がなされたのである。
やがて台湾や朝鮮、樺太を得た大日本帝国の欲望はさらに燃え上がり、アジア各国に侵略する時代がきた。かつて佐藤信渕が述べたように、まず中国からだ。長州閥の因子を受け取った陸軍が満州事変を謀略し、やがて中国全土を蹂躙する。そして太平洋戦争。あらゆるアジアの国々にその魔手を伸ばした。
敗戦後、天皇がその人間宣言の中で、「日本国民が他の民族よりも優秀だから、世界を支配する運命だというのは嘘だ。」(日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命 ヲ有ストノ架空ナル観念」)と宣べているのはこうした過程があったからだ。




             日本の右派が思い描く「征韓論」


『歴史通』2015-9増刊、岡田秀弘「日清戦争の核心は朝鮮という厄災」


右派雑誌で妄想的な歴史論を書いている岡田秀弘は、「こうした李朝のかたくなな態度が征韓論につながった」と時系列を変えて書いている。吉田松陰の弟子たちに韓国をはじめとする諸国の征服を命じたのは、明治維新の前の話であり、佐田 白茅が建白書を書いたのは明治初年であり、「朝鮮は応神天皇以来、(朝貢の)義務の存する国柄であるから、維新の勢力に乗じ、速やかに手を入れるがよろしい」と書いている。

この「(朝貢の)義務がある」は国学者が唱えていたものである。
そして秦郁彦が『陰謀史観』に書いたところによると、征韓論は明治維新の登場人物の多くが信奉する思想だったようだ。

岡田の記述は時系列を変える事で、被害と加害の関係を変えようというケチな試みであろう。

2020年3月13日金曜日

逃走と労務調整令



労務調整令で検挙したり、送局したりしているのだが、労務調整令が刑事罰を与えることのできる法律だとは知らなかった。
とにかくこうして強制できたわけだ。



逃走と労務調整令









44年




在日朝鮮人関係資料集成第5巻』より

2020年3月5日木曜日

『文芸春秋』考 -またあの道を辿るのか?



戦前の菊池 寛は翼賛運動の一翼を担ったために、戦後公職追放になったにもかかわらず、反省の弁がなかった。それどころか「我々は誰にしても戦争に反対だ。然し、いざ戦争になってしまえば協力して勝利を願うのは、当然の国民の感情だろう」などと正当化したのだ。
しかし、菊池の『文芸春秋』は日中戦争が始まると、月刊誌なのに増刊号を毎月出して中国との戦争を煽ったのである。
戦争に反対」どころではない。煽りまくって奈落に突き落としたくせに。
太平洋戦争がはじめる半年以上も前に、『文芸春秋』(昭和16年2月号(第19巻第20号)は座談会を組み「米国の攻勢と日本の決意」とやらを煽り、さらに編集後記では
「今や真に重大時局に直面している。・・・戦うべき時至れば、大いに戦うべし、我に万全な準備ありの自信に、事態の現実を深く掘り下げる必要がある。・・・日本戦うべし」
と対米戦争に向かう流れを造っている。菊池自身も「話の屑籠」という随筆(1941年12月号)で「英米の脅喝が、何うあらうとも、一旦 火ぶたが切られたならば、わが海軍の精鋭は、太平洋はもちろんのこと印度洋南洋にわたって、驚天動地の活躍を演ずるであろうことを、我々は信じている」と述べている。
そこで高崎隆治は(文芸春秋が)戦争へジャーナリズム全体を牽引した」と書き
天皇は開戦を何度もためらっていたというのが、もし事実だとすれば、『文芸春秋』はその天皇をそそのかし、その足をひっぱったということになる。
と書いている。(『一億特攻を煽った雑誌たち』p36)
戦争を煽りまくって、何の得があるのか?
もちろん得はあるのだ。
戦争をあおることで当時の”愛国者”のハートを鷲掴みにして売上を伸ばした良心の無い雑誌。
それが『文藝春秋』だからだ。・・・・すなわち、金もうけ主義のサイコパス文芸誌である。

戦後は一時的にまともな時期もあった。だが時代がウヨクへと急降下するとやはり同じ道を歩き始める。
『文藝春秋』が訳者不詳の『反日種族主義』を出版し、(日韓相克 : 終わりなき"歴史戦"の正体)というテーマで編集したのは2019年11月号である。ついに産経化し、かつての対米戦争の代わりに、「韓国との歴史戦」とやらを煽り始めたというわけだ。
塩野七生のデタラメ慰安婦記事を指摘されても、まったく答えることも無く、そのまま『「従軍慰安婦」朝日新聞VS文芸春秋』に掲載している。一NGOが、問題を指摘しても大出版社としては無視すればよいと考えているのだろうか?

「反日種族主義」などというデタラメ本を出し、宣伝し、ウヨクさんたちがやっている歴史戦を煽ることが、何を意味するか分からないのだろうか?

徹底討論 対決か協調か : 元徴用工たちに"誰が"賠償金を払うべきか (日韓相克 : 終わりなき"歴史戦"の正体)
橋下 徹,舛添 要一

「反日種族主義」と私は闘う : 慰安婦問題を放置すれば大韓民国は崩壊する (日韓相克 : 終わりなき"歴史戦"の正体)
李 栄薫,黒田 勝弘

文在寅「特別補佐官」が大反論 安倍首相よ、なぜ韓国が敵対国なのか (日韓相克 : 終わりなき"歴史戦"の正体)
文 正仁,朴 承珉
掲載誌 文芸春秋 97(11) 2019-11 p.115-121

多分、一時的に『反日種族主義』は売れ、雑誌は売れるだろうよ。かつてそうであったように。悪魔に魂を売った引き換えに・・・だ。





2020年3月2日月曜日

『反日種族主義』批判 ファクトチェック 「女子挺身勤労令」は朝鮮では施行されていない?



ファクトチェック 

「1944年8月、日本は「女子挺身勤労令」を発布し、12歳から40歳の未婚女
性を軍需工場に動員しました。ただし、この法律は朝鮮では施行されませ
んでした」(p266)
とイ・ヨンフンは書いている。
   (『反日種族主義』p265,266)





以前イ・ヨンフンは「・・・日帝は、44年8月に「女子挺身勤労令」を発動して、12歳から40歳の未婚女性を産業現場に強制動員する。だが、この法令は日本人を対象としており、植民地朝鮮では公式に発動されなかった」(「国史教科書に描かれた日帝の収奪の様相とその神話」小森陽一編『東アジア歴史認識のメタヒストリー「韓日、連帯21」の試み』p97)と書いていたが、少し表現を変えたようだ。

この『反日種族主義』では「施行されませんでした」にしている。

しかし金富子(東京外国語大学総合国際学研究院(国際社会部門・国際研究系)教授)は、「女子挺身勤労令は1944年、8月22日に、勅令519号として日本と朝鮮で同時に公布、施行されました」と書いている。
(『朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任』P19)


さて、どちらが正しいのか?

勅令519号を確認したところ、どこにも内地限定にする文言がないばかりでなく、第二十一條でこう書かれている。

第二十一條 本令中厚生大臣トアルハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮總督、臺灣ニ在リテハ臺灣總督ト
シ地方長官トアルハ朝鮮ニ在リテハ道知事、臺灣ニ在リテハ州知事又ハ廳長トシ市町村長ト
アルハ朝鮮ニ在リテハ府尹(京城府ニ在リテハ區長)又ハ邑面長、臺灣ニ在リテハ市長又ハ郡
守(澎湖廳ニ在リテハ廳長)トシ國民勤勞動員署長トアルハ朝鮮ニ在リテハ府尹、郡守又ハ島司
、臺灣ニ在リテハ市長又ハ郡守(澎湖廳ニ在リテハ廳長)トシ都道府縣トアルハ朝鮮ニ在リテハ
道、臺灣ニ在リテハ州又ハ廳トス


(第21条 本令中厚生大臣とあるは、朝鮮に在りては朝鮮総督、台湾に在りては台湾総督と
し、地方長官とあるは、朝鮮に在りては道知事、台湾に在りては州知事又は庁長とし、市町
村長とあるは、朝鮮に在りては府尹(京城府に在りては区長)又は邑面長、台湾に在りては
市長又は郡守(澎湖庁に在りては庁長)とし、国民勤労動員署長とあるは、朝鮮に在りては
府尹、郡守又は島司、台湾に在りては市長又は郡守(澎湖庁に在りては庁長)とし、都道府
県とあるは、朝鮮に在りては道、台湾に在りては州又は庁とす。)
附則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス







なるほど朝鮮半島や台湾にも公布・施行している。

結局、イ・ヨンフンは自分で資料を読んでおらず秦郁彦の書いたものを鵜呑みにしているのであろう。


こうした鵜呑みはイ・ヨンフンだけではなく、イ・ウヨンやチュ・イクジョンの論じる内容にも見られる。ほとんどが日本の右派・・・要するに産経新聞や「正論」誌、WILLなどに書かれている論文、特に西岡力や秦郁彦の受け売り・鵜呑みか、多少変形しただけの内容が多い。



「私の立場は、これまでの歴史研究における方法論を批判、反省するという意味合いを強く持っている。」とイ・ヨンフンは述べているが
https://www.j-cast.com/2019/11/21373279.html

元史料を確認せず、ファクトを日本の右派に追従するという方法論が「批判、反省するという意味合い」らしい。